2012年02月12日

「ニュースに騙されるな」

 我が社を含め、多くの新聞社がネットに対抗意識のようなものを持っていると感じていますが、この風潮に、「ネット業界は、新聞社があこがれるような世界ではない」と警鐘を鳴らす先輩がいます。

 理由は、ネット業界は過当競争で、そこで働く人々の多くは、年収が新聞社員の半分か、それ以下で、サービス残業や休日出勤当たり前という過酷な環境で働いているからです。

 そういう世界で、高コスト体質の新聞社が利益を上げるのは並大抵のことではなく、必然的にネット担当者の労働環境は、他のネット企業に引きずられるように悪化する心配があるとし、「ネットで儲けようと思うのはやめた方がいい」と指摘します。

 このような話を聞いてから、新聞各社は、ネット事業を検討する上で、ネット業界がどのような世界なのか、少し知っておいた方がいいのではないか、と思うようになりました。

 そこで、椎名健次郎氏の「ニュースに騙されるな」(宝島社新書)を紹介します。椎名氏は、フェイスブックで十年ぶりに“再会”した私の大学時代の旧友なのですが、東京の民放で政治記者やディレクターをした後、ネット企業に転職し、ニュース部門を担当。そして今は三つ目の企業で働いています。

 この本を紹介するのは、「驚くほど売れていない」と嘆く著者に同情した面もありますが、テレビとネットの両方でニュース現場を担当した彼の視点は、ニュースに対するネットとマスコミの姿勢の違いを知る上で、参考になると感じたからです。そのほか、前半部分では、記者クラブや政治家の裏話なども紹介しています。

 一部要約して引用すると…。

 「テレビ局では社員を管理しない。人事は基本的に年功序列。40歳が近づくころには差がつくが、年収が一割違う程度で、低くても一千二百万円という世界なので実感としてはないに等しい。一方、ネット企業は、部下が何をしているか、進捗状況はどうなのか、上司は厳しく管理する。数値目標は極めて厳格で、年率数十%の成長は当たり前だ。昇進昇格では年齢は一切、関係なし。20代の上司が40代の部下を持つことや、同じ年齢でも年収が2倍以上違うのは、珍しくない」

 「テレビ局は一応、ニュースなどの番組をつくるのに適した仕組みになっている。上司の顔色や数値目標ばかり気にしていたら、取材などできない。逆に、ネット企業は、利益を多く生み出すために最適な仕組みになっている。業務内容と数値目標を厳密に管理する。より多くの売上に貢献した社員に権限を集中させる。ネット企業は利益最重視であるがゆえに、ニュースをつくりだす意思がないのはもちろんだが、そもそも組織に土壌すらないのだ」

 「ネット企業の給与体系は、下に薄く、上に手厚い」「途中入社でも中間管理職まではすぐに到達できるが、その上は、古参幹部が天井のように張り付いている」「多くのネット企業では退職金もない」「平均勤続年数は、かなり短い。2010年の有価証券報告書によると、ヤフー4年5カ月、楽天と、ディー・エヌ・エーは2年11カ月、グリー1年1カ月、となっている」「なぜ在職年数が短いのか。ひとつは報酬だ。長く勤めることの利点が、一般的な企業に比べてほとんどない」「同業他社に移っても待遇はほとんど変わらない」「私が勤めていた会社は、退職が有給休暇と同じように簡単に社内システムで申請できるようになっていた」

 …などなど、ネット企業の厳しい内情が示されています。

 このようなネットの世界に、マスコミ社員は耐えられないのではないかと考えてしまいます。

 私たちは、何をもって、報道に集中できるこの恵まれた環境を享受しているのか、しっかりと理解した上で、ネットとどう付き合うのか慎重に判断した方がいいのではないか、と考えています。(惑)



posted by MOT at 15:05| Comment(0) | TrackBack(0) | ブックレビュー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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